長野県に学ぶべき、安い医療費で日本一長生きする医療
第2回 最強の地域医療
医療費が高いと、長生きか?
長野県は日本一長生きなだけでなく、高齢者医療費が安い地域でもあります。
厚生労働省が発表している『平成26年度 医療費の地域差分析』によれば、後期高齢者一人当たりの実績医療費は79.3万円で、全国で6番目に安いことになります。高齢者医療費が高い福岡、高知、北海道などと比べると、年間30万円も安いのです。
だからと言って、長野は十分な医療を受けられない可哀想な場所ではありません。地域全体として健康意識が高く、予防を頑張っているからこそ、医療費を抑えつつ長寿を実現することができています。
むしろ北海道、福岡、大阪といった地域は、高額な医療費をかけているのにもかかわらず、長生きできない可哀想な地域と言えるかしれません。
私は医師として北海道に赴任してから、ずっと伝え続けていることがあります。
それは「高齢化が進んだ地域では、医療の充実は人の健康や寿命には関係しない」ということです。これは長野県の例を見てもわかります。
それでも、住民の不安の解消として「医療の充実、病院を守ります」という候補者が選挙に当選し、地域をミスリードしてしまいます。
その結果、病院を始めとしたハコモノが重視され、本来は大事な住民意識改革、地域包括ケアがないがしろになっていく様をあらゆる地域で見聞きしてきました。
ある地域では病院の赤字がまちの財政を著しく悪化させたので、財政破綻を防ぐために病院を閉鎖しました。ところが、住民から「不安だ」という反対に遭い、再び、中途半端な「戦う医療」を続けるために数億円かけて新病院を建設しました。再び赤字が増えて、このままなら数年後に破綻するかもしれないという笑えない話も聞きました。
長野県を日本一長生きな地域に押し上げたのは、高額な医療費でもなければ、専門医療や医師の充実でもありません。若月俊一というたった一人の男が60年前に始めた運動です。その運動がタンポポの種が広がっていくように長野中に広がっていった結果です。
『ささえるクリニック』の村上智彦医師は、若月先生のやり方を模倣して、単身で北海道・夕張市に乗り込んで医療改革に尽力しました。村上医師に多くの人が続いたことで、夕張の高齢者医療費を83.1万円から73.9万円にまで引き下げることに成功しました。
「最強の地域医療」とは、若月、村上医師たちのように、たった一人の医師からでも始めることができるのです。
*参考文献
『村で病気とたたかう』若月俊一、岩波新書、1971年
『信州に上医あり』南木佳士、岩波新書、1994年
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